日本語を中国語に翻訳するときの注意点

漢字はニュアンスを伝えやすい言葉なので、字面を見ているだけでもなんとなく分かってしまいます。だからGoogle翻訳でだいたい訳してもらったらそれで通じそうな気がしますし、実際ある程度は通じてしまいます。でも、通じるだけではだめなときもあります。

中国語の機械翻訳

最近はGoogle翻訳などの機械翻訳の精度も上がり、中国とビジネスをしている人なども広く活用していることと思います。メールやテキストチャットの翻訳であれば問題ないと思いますし、もともと漢字を使っている言葉同士なので、中国語を知らなくても代替のニュアンスがつかめるということもあります。
しかしこの機械翻訳を本格的にビジネスに使おうとするのは、いろいろな問題が出てきます。おそらく、中国語のできる人にはこの説明は今さらで、そういう人は上司やクライアントからの「Google翻訳で問題ないでしょ」「大体わかったらいいんだからさ」といった指示に悩まされていることと思います。これが全く読めない文字で書かれた言葉だと頼む方にも未知のものに対する畏怖があるのでおとなしいのですが、中国語はなまじ漢字が読めるだけに「大体でいいんだからさ」という素人意見が通りやすくなってしまっています。

簡体字と繁体字、さらに地域の違い

中国語には繁体字と簡体字があり、台湾や香港では繁体字を使っており、大陸では簡体字を使っているというのは、多くの人が知っています。ここまでは中国語を勉強したことのない人でも知っている一般常識と言っても良いでしょう。しかし、単に繁体字と簡体字を置き換えればよいというわけではありません。

日本語でも口語と文語があるように、昔の中国にも口語と文語がありました。この文語のほうが日本でも学校で習う「漢文」です。中国は広く様々な方言があり、違う方言同士では話もできません。しかし文語ならば方言の違う者同士でも、さらには日本人や朝鮮人やベトナム人などとも意思疎通ができました。

ただし、「漢文」を読み書きできるのは知識階級だけに限られていました。漢文を高校で勉強したことのある我々には、その難しさの度合を理解しやすいと思います。
文語(漢文)は一般庶民には分かりにくく、識字率や教育レベルを下げる原因にもなっていました。そのため、口語である「白文」を書き言葉として用いようとする運動が中華民国の時代に起こりました。この白文は、清朝の頃に北京の役人の間で使われていた北京官話をベースにしました。これを中華民国は「国語」と呼び、中華人民共和国は「普通語」というように定義づけました。この言葉を英語で「マンダリン」(中国の高級役人という意味の言葉)と呼ぶのはこういう経緯のためです。

国共内戦の後、中華民国は台湾に逃れ、大陸は中華人民共和国が統治することとなりました。普通語を用いる中華人民共和国(大陸)は、識字率をあげるために話し言葉の改革だけではなく漢字そのものの習得しやすさを目指し、簡体字を導入しました。それに対し、国語を用いる中華民国(台湾)は繁体字をそのまま使い続けました。これがまず、簡体字と繁体字の違いになります。

「ならば『マンダリン』を繁体字で書けば『国語』で、簡体字で書けば『普通語』ではないか」となるのですが、そう簡単には行きません。国共内戦後、大陸と台湾、中華人民共和国と中華民国の間の交流は途絶えました。そのため、特にその後出てきた新しい分野の言葉などは、別の言葉が普及していきました。また、政治体制も社会体制も異なっていたため、おガタイのバックグラウンドの違いから来るニュアンスの違いもまた大きくなりました。
例えばソフトウェアとハードウェアのことを、簡体字では软件/硬件と言いますが、繁体字では軟體/硬體と言います。また、法律用語でいうと、日本の著作権法における著作者のことを、中華人民共和国では作者、台湾では著作人と言います。

やはり漢字どうしなので、似ていると言ってしまえば似ていますし、ニュアンスは分かるでしょう。だからメールやテキストチャット程度ならば良いのかも知れませんが、ビジネスでソフトウェアの著作権について契約を結ぶといった場合には、用語はきちんと使わなければいけません。

さらに、方言の問題があります。
中国で実際の話し言葉から隔絶された文語が長らく使われていたのは、方言の異なる者同士で意思疎通をする場合にそのほうが便利だったからというが理由です。白話にはメリットがあったのでしょうけれども、それは文語の持つこのメリットを打ち消せるものではなく、各方言の違いは野放しにされた状態になりました。学校では普通語を教えテレビでは普通語での番組が放送されても、公権力が一般庶民の話し言葉まで変えることは難しいのです。
そのため、方言の使われるようなシーンでは、書き言葉の中にも普通語と方言が混ざるような状況が生まれました。これが最も顕著だったのは香港になります。

以上のように、中国語の書き方というのは、非常に多種多様な状況になっています。さらにこれには使う場面というものの考慮がいります。多少違和感があっても通じれば良いという状況もあれば、厳密にしなければいけない場合もあります。また営業用の文章やクレーム対応と言った場合は、その言葉が感覚的にどう受け止められるかということも考慮しなければいけないでしょう。

ビジネスにおける中国語翻訳というのは、ここまで考慮してやなければいけないことになります。簡体字を繁体字に置き換えればよいというわけではないのです。
ビジネスで中国語翻訳を使用する際には、特に日本語から中国語に翻訳する際は、文章の性質と目的、さらには地域的特性というものまで合わせて、翻訳のバックボーンとして理解する必要がありますし、そのようなところまで理解できるプロフェッショナルが必要になるといえます。

マニュアル翻訳とGB規格

中国語の翻訳、とくにビジネスで日本語から(大陸の)中国語に翻訳するときに考えなければならないものに「GB規格」があります。
GB規格とは「中華人民共和国標準化法」によって定められた技術標準のことで、日本のJIS規格に相当します。JIS規格と違う点は、JIS規格が任意の規格であるのに対して、GS規格は中国で生産・販売・輸出をするためには必ず守らなければならない強制国家標準であることです。

そして、JIS規格は、ネジの規格や製造方法など、製品に関わる規格であるのに対して、中国は取扱説明書やマニュアルも製品の一部であると規定しており、その品質を強制国家標準であるGB規格で厳しく統制しています。具体的には、取扱説明書に記載すべき内容、使用可能なフォント、フォントのサイズ、中国語と外国語の併記方法といったものまで規定されています。
GB規格を守らないと法律違反となり、販売停止や商品の全回収や罰金などといったペナルティが課されることもあります。そのくせ、GB規格は膨大な件数が制定されており(一般的な目安としては4万件ほど)、日々改正されており、最新状況にアップデートするのは難しいものがあります。さらには業界標準や地方政府の定めた地方標準もあります。
取扱説明書やマニュアルを日本語から中国語に翻訳するということは、このGB標準のことまで考えなければいけないということになります。そのようなところまで精通しているプロフェッショナルが必要であると言えるでしょう。